貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
真冬でも陽射しが差し込むこんな日は、床板が温かくて歩いていて気持ちがいい。
出来上がった衣を持って向かう先は、いつものように弘徽殿である。

弘徽殿では変わらずに花菜を温かく迎えてくれる。

女御の人柄の良さもあるだろうが、取り巻く女房たちも皆穏やかで優しかった。花菜の身なりを馬鹿にしたりはしない。
そんなこともあって、弘徽殿に向かう時は自然と心も弾むし、足取りも軽かった。

――あ。
ふいに、途中渡り廊下をこちらに向かって歩いてくる碧の月君が見えた。

弘徽殿で唯一会いたくない人物である。

間違ってもかち合ったりしないようにと、花菜は足早に進んだ。

なのに、月君との距離は縮まる一方だ。

負けじと駆け足になった時、ダダダと走る足音が追いかけてきた。

「こら待てっ」
「きゃあ」

逃げる花菜と追う月君。

弘徽殿に着いた時には、ふたりともヘロヘロである。
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