桜の城のノクターン
「では、気まりね」
ウキウキとしながら、本当に楽しげに話す婦人にフェニルはホッと胸を撫で下ろした。
「では、ひとまず退散いたしましょうか。またお邪魔させていただきます」
「そうね、7時ころにまた来て頂戴。とびきりのごちそうを用意しておくわね」
その顔を見てリズも自然と顔が綻ぶ。
「でも一人で用意するのは大変ではないですか?よかったら私もお手伝いしましょうか?」
「あら、いいのよ。私お料理大好きだから。デートでも楽しんできてちょうだい」
ふふふ、と意味深な笑みを浮かべて、婦人は部屋を後にしようとする。
あ、と立ち止まって何かを思い出したかの様に告げる。
「そういえば、自己紹介がまだだったわ。私はキーナというの。よろしくね」
そう言われた二人は、慌てて自分たちの名前を告げる。
「私はフェニル・モンテペールです」
「私はリズ・シュトラールです。よろしくお願いします」
「どちらも良いお名前ね。では楽しんできてね」
そういうとパタンとドアを閉めていった。
「じゃあ行こうか」
リズに促されるままに、フェニルはサンルームを後にする。
子猫は、いつの間にかいなくなっていた。