桜の城のノクターン
突然の告白にも関わらず、リズは相づちを打つことも、質問をすることもなく、ただ聞いていた。
今回の女城主を逮捕するために、それらの資料をあらかじめ読んでいたのだ。
しかし、資料に目を通すのと、実際に聞くのとでは大違いだ。
リズはかける言葉を探していたにすぎない。
フェニルは続ける。
「だから、その時のことを思い出してしまって・・・。でももう大丈夫です。すいませんでした」
痛々しい笑顔でリズに向かって微笑む。
何ともいえない心の痛みを感じて、リズは下を向くしかなかった。
「シュトラール様?」
ようやくリズが顔をあげる。
「そのシュトラール様ってやめてくれないかな?なんか他人行儀だし、長いし。リズって呼び捨てでいいからサ」
リズはリズで仕事用の乾いた笑みを貼り付けていたが、フェニルは気付かない。
「そ、そんな・・・」
「もう慣れたデショ?じゃあ決まり。僕もフェニルって呼び捨てで呼ぶからサ」
すでにリズの中では決定事項だった。
フェニルは断る理由も、術も持ち合わせてはいなかった。