桜の城のノクターン
カラン、コロン。
店のベルが鳴り、客の来店を告げる。
その音を聞いて何気なく振り向いた女性が息を飲んだ。
この辺では見ない様なスーツをビシッと決めた、いわゆる美男が店に入ってきたからだ。
しかし、次の瞬間、ガクりと大げさに肩を落とす。
女連れだったからだ。
それもそうだ。
ここは女物の衣料品店。
男性が一人で入ってくるはずがないのだ。
女性は、一緒に来た、隣の女性を小突いて、美男を見るよう促す。
その女性も軽く息を飲んだが、連れを見て肩を落とした。
一目で、自分では敵わないと判断してのことだ。
その二人はもちろん、リズとフェニル。
両者とも自覚はないが、美男、美女と呼ばれるような容姿を持っていた。
リズの切れ長な双眸に見つめられたらどんな女性もイチコロだ。
そんなところを買われてか、今の部署で、今の仕事をしているわけだが。
そんな二人を見つめる女性は、その二人だけではなかった。
その他にも多くの目が見つめていた。
もちろん、店員のマダムも例外ではなかった。