桜の城のノクターン
こじんまりとした二階への階段をのぼり、一番手前の部屋の扉を開く。
部屋の趣味はよく、どのような年齢の客人が来たとしても対応できるであろう。
少々色褪せてはいたが、それもまた趣きがあると言うもの。
この少女の趣味のよさが伺える。
「ゆっくり休むといい。私は隣の部屋で休ませてもらうから、何かあったら直ぐに呼ぶように」
命令口調だが、その瞳は優しい。
「あ、あの、ありがとうございます。一つだけ、ひとつだけお聞きしてもよろしいですか?」
部屋から立ち去ろうとしていた青年が、足を止めて振り向く。
「なぜ、私にこんなにも親切にしてくださるのですか?」
もっともな疑問だった。
「……それは、明日になればわかります。今日はゆっくり休んだ方がいい」
少女は聞き返すことができなかった。
「では、良い夢を」
パタン。
静かにドアが閉まる。
月明かりの中、少女は一人になった。