桜の城のノクターン
モンテペール城で最後に見たフェニルとは、別人のような人間が座っている。
フェニルもフェニルで、最後に見たシュトラールとは少し違う雰囲気を纏っているのを感じ取っていた。
優雅に紅茶に口をつけるフェニルにリズは言葉が出て来なかったので、フェニルを見習い、紅茶と、先ほど頼んだケーキをほおばる。
甘酸っぱいかたまりが、口の中で溶けていく。
思わず、蕩けてしまいそうになった顔を引き締める。
ロークに言われたことを忘れるところだった。
気を引き締めよう。
「フェニルさんはここにはよく来るんですか?」
あくまで、紳士的な態度で質問をする。
「フェニルさん、だなんて・・・ただのフェニルでいいですよ」
少し淋しげな笑みを浮かべ、続ける。
「ここへは、父が生きていた頃によく来ていました」
リズが、しまった、という顔をしたのを見て、さらに続ける。
「気にしないでください。父のことは、今となっては良い思い出です。父はいつも言っていました。今を楽しく生きなさい、と。それを実行しようと思ったんです」
「それであの城を・・・?」
「ええ、爺と二人で住むには広すぎましたから」
あっけらかんと言うその姿にリズの心の霧は少しだけ晴れた。