君は僕のもの 【続】
ベンチに座ったままお互い歩む恋人たちを見るでもなく、例えば側にあるアトラクションを見るわけでもなく。
ただボーっと遠くを見つめて、
冬なのに温かい、幸せな空気に触れていたような気がする。
「…愛梨」
絡めていた指に少し力が加わって。
微かな甘い樹の香水の香りがホワッとあたしの嗅覚を包む。
大きな樹の猫みたいな目に見つめられて、どんどん無意識にも上昇するあたしの体温は、きっとこの先も樹だけにしか反応しない。
というよりも…
そうでありたいな。なんてね。
「なに…?」
斜め上を見上げる様にして樹の目を見る。
やっぱり慣れない。
「……俺、」
いつになく真剣な感じがするのは…気のせい?
そう思ってる間に頬に添えられる樹の大きな手のひら、それが温かくて、…だからこそずっとその手に頬を寄せていたい。
この匂いに包まれていたい。
ドクン…ドクン……、高鳴るこの胸の鼓動が苦しいような気持ち良いような。
「…俺、…喉乾いた」
「……へ?」
喉、乾いた…って、今、言った?
「だから、喉乾いた」
悪戯に笑ったその笑顔は、さっきまでジェットコースターが苦手だった筈の、ちょっと可愛かった樹の姿は無かった。