君は僕のもの 【続】
『大丈夫』
口にはせずにそう愛梨に伝えて、そっと頭を撫でる。
「アンタの女、俺…結構気に入っちゃたわ」
切れ長の目がジッと俺を見据える。
気に入った?
「それ、凄い迷惑。
あと俺の名前は『アンタ』じゃないから、矢上樹。」
淡々とそう表情を崩さず言う。
けどそれが気に喰わないのかソイツはチッと舌打ちをして俺を軽く睨む。
「…矢上、樹。覚えといてやるよ~」
少し視線を外してからもう一度俺を見る。
そのまま真横に来ると耳元で言った、
「“これからよろしく”矢上くん」
クスッと笑ったその不敵な声が俺の頭を嫌にさせる。
そのまま真横を通り過ぎた時、ポンッと肩を叩かれて…そのままソイツは歩いて行ってしまう。
妙にムカつく。この感じ。
その時、俺の胸の中に居た筈の愛梨が動いて、その遠くなる背中に問い掛けた。
「……な、名前は…っ!?」
あ、俺も聞けば良かった。
とか思いつつも、何か愛梨が名前を聞いた事に苛立つ感覚を覚える。
するとさっきまで俺に向けていた表情よりも柔らかく、…けど何処か不気味な企みを含む微笑みを浮かべて、
「また逢える」
そう一言だけ残し歩いて行った。
そしてその言葉の意味を知るまでそう長くは掛からなかったりするわけで。