君は僕のもの 【続】
微かな笑みを浮かべて、その長い足を下から舐める様に見上げて見れば。
端正な顔立ちに赤茶色の無造作にセッティングされた髪。
その顔は…あたしの知ってる誰よりも大好きな顔で。
その声は誰よりも大好きな声で。
だんだんと情けなさとか、悲しさとか…白井くんに対しての恐怖とかが入り混じって、目頭が熱くなってきた。
「う、…っうぅあ……いづぎぃ…」
迷子になった子供が、お母さんを見つけて泣いたみたいに。
ドッと溢れて零れ落ちる涙と、少し鼻がツンとする感じが、やっぱりあたしは何も変わってないんだって、
そう主張してるみたいだった。
ゆっくりとあたし達の方に近付いてくると、その表情はさっきまでの僅かな微笑がだんだんと…怖いものに見えて。
その笑みが少し怖い。
けど、その表情は徐々に険しいものに変わっていった。
「その子、返してくれない?」
首を少し傾げてそう言う、その視線はあたしじゃないもう一人に向けられている。
「…へぇー、王子様の登場?っはは!…面白ぇな」
クスクスど馬鹿にするような笑みを浮かべて、彼は笑う。
「俺は王子じゃないし、別に面白くない、…で、返して」
冷めきったその表情は冷静さを表してて、けどどこかいつもに比べて余裕に欠けてるような気もした。
するとそのあたしを掴んでいた白井くんの手の力が弱まり、
「はぁ…っ、……何か面倒臭そうだから、返す……」
パッと離されてそのまま樹の方に突き飛ばされる。
そしてそのまま初めて会った時みたいに横切る、その瞬間。
「“今は”ね?」
クスッと鼻で笑うと、そう樹の耳元で言ってその場を去っていった。