君は僕のもの 【続】
「一人しかいないのに、アンタはその女の影をアレに重ねてる」
フイッと視線を一瞬だけ愛梨に配る。
「…現実逃避?」
結局コイツはただ、今の自分のままその女に逢えないだけ。
後ろめたさがまだ抜けないだけ。
それで見つけた自分の想い人に似てる愛梨……それに自分の想いとか昔の思い出とか今の自分とか、
そういうの全部を重ねて見てた。
だから執着したんだろうね。
「…だけどアレは、アンタの好きな女の影を重ねる為にあるんじゃないから」
ゆっくりと歩きだした奴の側に行くと、
それに気が付いた奴が俺のことを下から見上げる。…けどその表情はどこか切ない。
「アレは俺の為にあるの。アンタじゃ無い」
そう言ってから俺は愛梨の方に向かって「帰るよ」と小さく一言だけ呟いた。
座ったまま地面をボーっと眺めるアイツの方を見た時。
最初に逢った時とか、今まで見てきた感じとは全然違って…本当は結構、そこまで不真面目な奴って訳でも無いのかも。
とか。
愛梨に便乗されたみたいな、そんな良からぬことを考えてしまって困る。
「……白井くん、大丈夫かなぁ…?」
潤ませた目のまま背に向けて屋上の出入り口の方へ向かいながら、愛梨はポツリと言った。
何だそれ、
「俺の心配とかしないわけ?」
と冷め気味に言うと、
「あっ!!…違うのっ!心配はずっとしてて…だけど……」
意味分かんないんだけど。
「いいよ、別に」
それに対して俺は適当に言葉を口にする。