君は僕のもの 【続】




それなりに見ちゃったりは…するもんね。


心の中でちょっとばかり樹に悪いという気持ちを抱きながら、視線をチラリとその“ある人”へ向けた。

向けた。


…向けた、んだけど。


「ねぇっ?!…あれ、矢上じゃないの!?!?」

先にあたしが言いたかった言葉を言うと美菜は勢い良く立ち上がって、一目散に歩き出す。


後ろから美菜のそんな後姿を見て…何だか嫌な予感もしつつ、

それよりも今のあたしにはこの状況を把握する簡単な方法をひたすら頭の中を掻き混ぜて掻き混ぜて、どうにか探し当ててみる。


けど…このドキドキと急な動きを始めたあたしの心臓。
きっとこのまま止まらないよ、


「樹…」

口から小さく零れて落ちた言葉。

驚きと、驚きと…ていうか驚きでいっぱいいっぱいになった頭。


「ちょっと矢上!」

大きな美菜の声が店内の中で少しだけ響いて、そんな声にビックリしたような顔をした樹が振り向く、


でもその樹の視線は美菜では無く…その後のこの席で座っているあたしの方に向けられた。
瞬間、妙に焦ったのは何でだろう?

悪いことをしてる訳じゃ無いのに。



「誰に聞いたの…?」

とさっきまでの驚いた顔は消えて樹の表情はいつも通りの冷静な顔つきに戻って、その問いはまたもや美菜では無く…あたしへの問いだったみたいで。


「たまたま…来たら、何か」

ウェイター姿の樹を見るのはあの文化祭以来だけど…何かそんなことに浮かれていられる場合じゃないみたい。

どう答えたらいいのか、分からなくて。


ボソボソ口元から外に出ていこうとしない言葉は…このあたしの弱気な性格を何よりも表すものだった、



「何で愛梨に教えてあげなかったのよ!?」

そんな微妙な空気を切り裂くような美菜の一言。


「何でって…つかとりあえず今はバイト中だから、」


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