わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~

「楓さま、クリフォード様がいらっしゃいましたよ」

リクハルドさんが中庭の北に位置するポーチのある方向を見ている。

私からは何も見えず何も聞こえないけれど、狼族の血が流れるリクハルドさんにはクリフ様の気配がわかるのだろう。

「よかった。予想以上にお早いお帰りでしたね」

ホッとしたように私に微笑みかけるリクハルドさんに私は上手く笑みを返すことができない。

まだ頭の中の整理ができていない。
この状態で話をしてもろくなことにならないんじゃないかと急に不安になってきた。

もちろん、クリフ様には聞きたいことがたくさんあり早く会いたいと思っていたけれど。
果たしてストレートに聞いていいものだろうか。

そしてクリフ様はそれに正直に答えてくれるのか。

私の気持ちはどうなのか。

全てがわからない。

すがるように膝の上のひよこを抱き締めようと手を伸ばしたら、いつの間にかひよこはいなくなっていた。
膝に乗せた時にずいぶんと軽いなとは思っていたけど、いなくなったことにも気がつかなかったなんて。

どこにいってしまったのかしら。
辺りを見回してもひよこの姿は見えない。飼い主か親鳥の元に戻ったのならいいのだけど。


「楓!」

顔を上げると大股でこちらに向かって来るクリフ様の姿がある。
怒ったような表情で非常に怖い。
近付いて来るクリフ様の顔を見て私の顔が強張っていく。

私が悪かったのかしら。
私の態度に怒ってミーナ様は帰ってしまわれたのだし。ミーナ様のおっしゃる通り彼女がクリフ様の愛情を受けている方なのだとしたら叱られて当然だわ。

不安と恐怖で逃げ出したくなる。今まで感じたことのない感情だ。

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