わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~
「ミーナのことだが」

クリフ様ははっきりと声を出した。今から聞きたくない内容もあるのだと思うと胸が苦しくなるけれど、一度は聞いておかなくてはいけない。
私はこくりと頷くいた。

「アレが影で番の見つからない私の婚約者面をしていたことは知っていた。常々注意はしていたのだがもっと強く言うべきだったなと今は後悔している」

クリフ様は苦虫を嚙み潰したような顔をしてため息をついた。

「あと50年私の番が見つからなければあれと子を成す可能性があったかもしれない。だが、あれに愛情があるかと聞かれたら、ないと断言できる。酷い言い方だが、仮に結婚したとしても愛せたかどうかもわからん。親愛の情は感じただろうが」

確かに酷い言い方だ。少なくともミーナ様はクリフ様のことを好きだったと思うのに。

「それでもお子さまは必要ですよね」

「そんなことも聞いていたのか」

「ええ。竜の血筋のないものに竜王の子どもを産むことはできないと」

「それは正しい表現ではないな。竜と人間が結婚して子供を設ける例があるのだから。
ただ、ただの竜と違い竜王は身体に持つエネルギーが強すぎて竜の血を持たない人間とは子どもができないのではと言われている。あくまでも可能性の問題だが、私は子どもなど出来なくてもかまわない。次代の王は私たちの子どもでなくてもいいのだ」

どういうことだろう。クリフ様の言っていることがわからない。
竜王の子どもがいなくていいはずはない。

「私の幸せは楓と共にあることで竜王であり続けることではないからだ」

クリフ様の瞳の光が柔らかくなり、私の両頬が温かく大きな手に包まれる。

「王家の子どもであればマルドネスの子どもがいるだろう。でなければ、私の姉の子どもでもいい。竜王など私でなくてもいいんだ。それよりも、私は楓と共に過ごすことを望む。側室など欲するはずがない。ミーナでなくとも楓以外私には必要がない」

「クリフ様」
私の心にぽっと温かい灯りがともる。
鱗がないのに身体が温かくなってきたみたい。薄ら寒かった胸も背中も指先までもじわじわと温かくなっていく。
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