わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~

「ふふ、何だか元気が出てきました。何を心配してたのかしらってくらいに」
「私の伝え方が悪かったのだ。宮殿の私室のバスルームを楓へのサプライズにしようと思っていたからとんでもないことに巻き込んでしまった。
それに・・・」

「それに?」
言葉を切ったクリフ様にその先を催促した。

「ミーナが”愛してる”と言っていないことを知っているのは理由があるんだ。もちろん私があれに言ったわけじゃない。あれは私とマルドネスとの会話を聞いていたのだろう。その話をしたのは前にも後にもあの時だけだから」

私たちの婚約披露が決まった頃、クリフ様がマルドネス邸を訪れてアリアナ様に私の教育係を頼んでいた。どうもその時のことらしい。

「マルドネスに「楓に”愛してる”と毎晩囁いているか」と聞かれて一度も言ったことはないと答えたんだ。その時、ミーナは同席していなかったんだが、たまたまあれもアリアナの見舞いに来ていてあの館にいたからそれを立ち聞きしていたとしか思えない。私も迂闊だった」

「そうだったのね」

「”愛してる”と言わなかったのは愛していないからじゃない。ただ毎日”愛してる”を大安売りしているマルドネスとラウルと一緒にいると、”愛してる”がどうにも薄っぺらな言葉に聞こえてな。楓に言うタイミングを失っていただけなんだ」

何ともまあ。聞いてしまうとたかがそんな理由だったとは。

確かにラウルさんはビエラさんに「愛してる」「我が愛するビエラ」とうるさいほど連呼している。マルドネス様も同様。
< 167 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop