わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~


クリフ様の言う通り、堅苦しい集まりではなかった。

室内に入ると、用意された席に座る前にあれよあれよと人が集まり、周りを取り囲まれてたくさん話しかけられ口々に勝手に自己紹介を始められ大騒ぎになったのだ。

呆れたクリフ様が「落ち着け!」と一喝するまで続き、一旦は皆着席したのだけれど、結局食べ終わる前にはまた私たちの周りに人が集まって来てしまっていた。
始めとの違いは今、皆手にお酒のグラスを持っていることだろう。

確かにマナーなど心配いらなかった。
ごく親しい関係だという彼らは気さくで陽気な方が多く、私も会社の宴会の時よりもリラックスすることができたのである。

食事前に行われた自己紹介で名前を知り、お酒を手に次々と現れる人たちと話をして彼らの人となりやクリフ様との関係を知るを繰り返しているところだ。
これって結婚式の披露宴に二次会を足したみたいと密かに笑ってしまった。

「楓さま、大丈夫ですか?何か困ったことはありませんか?少し休まれますか?」
ヘストンさんが私の背後から声をかけてくれる。

私が心の中で執事さん(仮)と呼んでいた方は家令のヘストンさんでクリフ様の秘書のダニングさんとは親戚だと聞いた。

「大丈夫です。ありがとうございます」

多少の疲労は感じるもののこの場の雰囲気が良くて、苦痛というほどじゃない。会話を聞く余裕まであったので大きな問題もない。しばらくこの国に厄介になるからにはこうしたコミュニケーションは必要不可欠なものだ。

< 49 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop