わたし竜王の番(つがい)です  ~気が付けば竜の国~
「残念ですが、私にはおりません。ですが家令のヘストンには同じ竜族の番がおります。彼らは生まれてすぐに出会い、成人するとすぐに結婚しました。
それからもう150年になりますが、今も幸せそうです。そして、このラウルと妻のビエラも番ですよ」

ラウルさんは笑顔で頷く。
昨夜聞いた話ではビエラさんには竜の血筋が入っていない。

「番に種族は関係ないのですか?」

「関係ないと言われています。ただ、違う種族に生まれた番は暮らしている環境が違うことから見つけ出すことが困難なので私のように番を見つけられない竜もおります。
番にこだわるのが竜族の特徴の一つではありますが、番を見つけられないからといって不幸であるわけではないのです。
番が見つからず他の者と結婚する場合もありますし。
しかし番と共に過ごす生活は特に幸せに溢れているというのが竜の世界の認識です」

「通常であれば番はある程度お互いが見つけられる環境のところにいるものです。今回のクリフォード様と楓さまがイレギュラーだったと思われます」

これはイレギュラーだったのだと。

「他の方と結婚した後で番が見つかったらどうなるんですか?」
ここ、かなり重要なポイントだ。

「確かに過去にそのような例がなかったとは言えません。
その時の対応は各個人によって違うのですが。離婚し番と再婚する者がいれば、二度と番と接触をしないように家族を連れて物理的に遠く離れて暮らすことを選ぶ者もいます。そんな不幸が起きないように番は身近な所から見つかることが多いのだと思うのですが」

結婚した後で相手に番が見つかったなんてお互いにとって悲劇でしかない、と思う。
それだけに番が見つからない竜は国を離れて地上で番を探すことがあるのだとか。

「私がクリフォード様から地上でのビジネスを任されているのはこの国で番が見つからないからだと思っております」

ダニングさんが優し気な視線をクリフ様に向けると、クリフ様はとぼけたように口角を上げて視線をそらした。
仕事を任せつつ竜の国にいなかった自らの番を探すことができるようにしてあげているのかもしれない。

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