紫陽花のブーケ

≪side 絵利華≫

「絵利華ちゃん、きれいよ」

「ありがとう、お母様」

身に纏うはこの日のために用意した、大輪のバラを手書きした一点ものの振袖
金糸銀糸をふんだんに織り込んだ帯がさらに華やかさを添える

髪を結い上げて涼し気な宝玉を散りばめた簪を挿し、メイクは和装に合わせてやや控えめに……

姿見で何度も見直し確認する私に、苦笑しながら母が褒めてくれた先程の言葉で、我に返る

そう、今日は待ちに待ったお見合いの日!

私を選んでよかったって、改めて彼に認めてもらう為だもの

一番きれいな私になって、正嗣さんに喜んでもらいたい……

学生の時から人目を惹く容姿に違わず、優秀な頭脳でスポーツも万能と評判だった彼
年を重ねてもなお美しく、大人の落ち着きと精悍さが加わり、私の胸を熱く焦がした

5年ぶりの再会こそ私には気づかなかったようで素っ気なかったけれど、それ以降は昔と同じように優しく接してくれる

思い返せば付き合っていた当時、ただただ優しい彼に、私は不安になってしまった

周りの友人たちの話すお付き合いは触れ合い以上のものがほとんどで
キス以上に進まない二人の関係に、私は内心焦っていて

ーーー本当に若気の至りとは恐ろしい

男性にとって自分は魅力ある女性なのか、確かめるしかないと思い込んだ私は悪手を選んだ

彼の友人を呼び出し、女友達に聞いた通り誘いをかけてみた
結果はあっけないほどで、簡単に男性を陥落できたことに、私はやっと安堵した

ただ、私にとって一つの検証に過ぎなかったその行為を友人は彼に暴露してしまった

まさか友人のくせにばらすなんて、思いもしなかったわ

それでもまだ私は、優しい彼なら話せばわかってくれると思っていた
自分が不安にさせたせいだと、一度の過ちと流してくれると思っていたのに、彼は私から離れていった

私は正嗣さんだけが好きだったのに


若さゆえ愚かだった私を、同じく若さゆえ、潔癖だった彼は許せなかったのだと、今は思う
だから別れという誤った回答を選んだのだと


ーーーでも、もう間違わないわ


再会した彼は大人の包容力を身につけて、昔以上に優しく、紳士的に接してくれる

彼もこれまでにいろいろなことを経験して、わかってくれたんだわ
そして自分にとって最高の伴侶は、私以外ありえないと理解できたのでしょう
打算も合ったっていい、そんなもの、社会人ならあたりまえのことですもの


もう焦らなくていい
今度こそ、二人は結ばれるのだからーーー



「絵利華ちゃん、願いが叶ってよかったわね」

溢れ出る思いが表情に現れていたのか、母が揶揄うように言って肩に手を添える

「お母様ったら気が早いわ」

「あら、でもとっても幸せそうよ」

「…ええ、幸せよ、これ以上ないくらい」

気恥ずかしくて強がったら、目を潤ませた母が鏡に映っていて、思わず鼻の奥がツンとしてしまい、言葉が詰まってしまった


ーーー過去は過去

それを乗り越えて私たちは、今度こそ運命のもと結ばれる

彼と歩む未来は、どれだけの愛と喜びに満ち溢れていることでしょう

私は正嗣さんと再び巡り合わせてくださった家族と神に感謝を捧げながら、なお彼の人に馳せる思いを止められない


ーーー愛しています、正嗣さん。貴方もきっと、同じ思いでいるのでしょうね……



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