闇の果ては光となりて
「早く貸せ」
四の五の言わずに出しやがれとばかりに、掌を差し出す。
「はぁ···もう、霧生は我儘だね。そんなんじゃ女の子にモテないよ」
ブチブチ言いながらも来た道を戻っていく光についていく。
この溜まり場は、大きな倉庫を改装して、一階に下の奴らが溜まるための大部屋と幹部室を作ってある。
二階倉庫は壁と通路で仕切り、幹部達の個室が設えてあった。
6部屋あるうちの4部屋まで今は埋まっている。

「嫌でも、女は吐いて捨てるほど寄ってくんだろうが」
野良猫の名声と恵まれた容姿に引かれた中身のない連中が、嫌ってほどな。
「まぁ、確かにねぇ」
振り返りニカッと笑うと、自室の前で立ち止まりドアを開けた。
部屋に入り洋服ダンスを物色する光を、ドアの側で見定める。
くだらねえ物を選んだら承知しねぇからな。
「出来るだけ小さい服にしろよ。んで、急げ」
「もう、そんな急かさないでよね。小さい目小さい目っと···」
あれこれ引き出しながら選別する光に、だんだんとしびれが切れてくる。
「早くしろよ」
「はいはい。まったく···これなんかどうかな」
苦笑いで肩を竦めた光が取り出したのは、赤いバミューダパンツと黒いロンT。
まぁ、これなら神楽でも着れそうだな。

「これ借りるな。念の為に聞くけど、女物の下着とかはねぇよな」
下着なしとか、あいつ嫌がりそうだしな。
光から服を受け取り腕にかける。
「あるわけ無いでしょ? 僕男の子なんだからね」
プンスカ怒った光はやれやれと首を左右に振った。
「チッ···役に立たねぇな」
「もう〜酷いよね。はぁ、これも貸してあげるから胸に巻いたら? パンツは···うーん、そのパンツ、裾が長いからノーパンで良くない?」
「···そうすっか」
ねぇものはねぇし、仕方ねぇ。
くるりと踵を返し、廊下を歩き出す。

「ねぇねぇ、待ってよ。それどうすんの? 遊び相手連れて帰ってきちゃった? 霧生にしては珍しいねぇ」
自室のドアを慌てて締めた光は、大急ぎで追いかけてきて俺の隣に並んで歩き出す。
「別にそんなんじゃねぇよ。子猫を拾っただけだ」
あいつで遊ぼうとか考えてねぇし。
ただ何となく、保護しなきゃなんねぇって思っただけだ。
「僕も会いたい。その子猫ちゃんに会いたーい」
甘えた口調で笑を浮かべた光を無視して、俺は駆け足で階段を駆け下り幹部室へと向かった。
面倒なのが、ついてきやがったな···服を借りた癖に心の中で悪態をついた俺は恩知らずだろうな。

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