闇の果ては光となりて
通りをいくつも変え、曲がり角をいくつも曲がり、私達を乗せた車は一本の路地裏に到着した。
背後にパトカーの気配はない。
薄暗く人通りの少ないそこに車は停車すると、総長が口を開いた。
「神楽、絶対上手く行く」
「うん」
「身を隠して光を待て。絶対に出てくるなよ」
「分かった」
私は頷き、車を降りる。
ドアが閉まると、車は急発進で闇に包まれた道の先へと走り去っていく。

「隠れなきゃ」
震えそうになる足に力を込め走りだす。
私が目指すのはすぐ近くにある木箱の積み重ねられた横道。
こうなる事を想定して、数日前に霧生と下見に来た場所だ。
足音を出来るだけ立てない様にして、横道に滑り込む。
木箱の裏に身体を隠し終えた私に聞こえてきたのは、パトカーのけたたましいサイレン。
赤い光を点灯させながら、私の隠れる横道の前を通り過ぎていく数台のパトカーに、心臓が飛び出しそうになった。
総長や霧生達は大丈夫かな?
コウも光も怪我してないかな。
野良猫のみんな···誰も傷付かないで。
しゃがみ込み両手を握り締め、祈る事しか出来ない私は、無力だ。


どれぐらいそうしていたのかな。 
周囲はいつの間にか静寂に包まれてた。
パトカーのサイレンも、随分遠くに聞こえる。
光、早く来て、お願い。
祈る様に裏通りを見つめる。

不意に裏通りをライトが照らし出し、一台の車がゆっくりとやって来た。
それは見覚えのある赤、舞美さんの車だ。
助手席に霧生の姿はない。
そう言えば、警察が現れたらコウのバイクに乗り移る手筈だったもんね。
そして、舞美さんは暴走に巻き込まれた一般市民を装うって話。
だったら、最初から参加しなきゃ良かったのにと思ったのは、私だけじゃないと思う。

舞美さんの車は、私の隠れる横道を過ぎて少し行った辺りで停車する。
すると前方から一台の白い車が現れた。
私は木箱から身を乗り出す様に、彼等の様子を盗み見る。
車を路肩に停めた2台から人が2人が降りてきた。
舞美さんと、細身のインテリっぽいスーツを着た男だ。

「ねぇ、子猫の乗る車はこの先の袋小路に追い詰めたのよね?」
「ああ。うちの連中がうまく誘導してるはずだ。それに警察の追従を撒く為にはそちらに向かうしかないだろう」
「子猫ちゃんは貴方が好きにした後、約束通りあの男に引き渡しておいて」
「好きにって、お前は怖い女だね」 
インテリ男は、楽しげに広角を上げると銀色に光るメガネを中指で押し上げた。
あの男って···まさか。
1人の人物が頭に浮かんで、私はそれを払拭するように頭を左右に振った。
< 101 / 142 >

この作品をシェア

pagetop