闇の果ては光となりて
「だって、邪魔なんですもの。せっかく霧生を手に入れたと言うのに邪魔をする存在は必要ないわよ」
赤い口紅の乗った唇をゆるりと上げた舞美さんの顔は、狂気的に見えた。
「手に入れたってお前がハメただけだろ? 俺との子供が出来た途端に、睡眠薬で眠らせた室町のボンボンを襲った癖によく言うよ」
「霧生がなかなか私の物にならないからよ。貴方の子供が出来たのは誤算だったけど、私はそれをチャンスに変えたのよ。室町カンパニーの御曹司を手入れられるなら、多少の嘘も必要じゃない」
「本当怖い女だね」
「見かけも良くてお金持ちの男なんて、そう簡単に手放せないわよ」
クスクス笑った舞美さんに怒りがこみ上げた。
この人は、お腹の子を道具にして、霧生を罠に嵌めて苦しめたんだ。
怒りに思わず立ち上がり叫びそうになった私は、後ろから伸びてきた手に口元を押さえつけられた。
身体の温度が一気に下がる。

舞美さん達に気を取られて、背後から来る気配に気付けなかったんだ。
恐怖で身体が震えそうになった時、耳元で声がした。
「神楽ちゃん、大丈夫だよ」
光? 首だけ振り返ると、そこにはにっこり微笑みながらも瞳に怒りを宿した光の姿があった。
「手を離すけど、叫んじゃ駄目だよ? いいね?」
念を押されウンウンと頷いた。
ゆっくりと離れた手に、静かに深呼吸を繰り返した。
「光、舞美さんが···」
「うん、聞いてたよ。本当酷いよね。だから、録音してみたよ」
してやったりって顔でスマホを私に向かって見せた光。
スマホの画面は動画撮影中だった。
光の起点の早さに感心しつつも、証拠を残せた事に安心した。
「さぁ、もう少し見よう。本当はこの先で彼らを待ち受ける筈だったんだけどね。少し計画変更だよ。みんなも直ぐに駆け付けてくるからね」
私にそう言うと、光はスマホを真美さん達へと向けた。


「で、お前はこの後どうするんだ? これだけ大掛かりに野良猫を攻めたんだから、舞美も怪しまれるじゃないか?」
「そんなの貴方が上手く誤魔化してくれるわよね。私の身体を自由にしてるんだもの。それぐらいして欲しいわ」
舞美さんはそう言うとインテリ眼鏡に抱き着いて、キスをした。
インテリ眼鏡がそれを受け入れ深いキスを仕掛けると、艶めかしい水音が裏通りに響き渡った。
なんなの、なんなのよ、あの人達。
霧生を馬鹿にして、ムカつく。

「舞美とはこれからも長い付き合いに、なりそうだな」
インテリ眼鏡が、欲情を瞳に宿し舞美さんのお尻を鷲掴みにした。
「私の初めてを貴方に捧げてから、随分と貴方好みに開発されたこの身体は、貴方以外じゃ満足出来ないもの。これからも楽しませて欲しいわ」
ウフフと笑ってインテリ眼鏡にしなだれかかった舞美さん。
霧生しか居ないって、泣いてた彼女はもうどこにも居なかった。
ツッキーの言う様に、こんなに人に騙されたなんて、私情な過ぎるよ。
霧生、悔しいよ。
彼の思いを踏み躙っていた彼女に、体中の血液が沸騰した。
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