闇の果ては光となりて
霧生のバイクに乗り、やって来たのは閑静な高級住宅街。
ますます霧生がお坊っちゃんだと認めなくちゃいけなくなる。
総長は、お坊っちゃんだってのは分かってるんだけどね。
もちろん、本人に向かってお坊っちゃんとは言ってないよ?
そんなこと言ったら、総長は拗ねちゃうからね。
お父さん事件でこりました。


一軒の白亜の豪邸の手前で、霧生はエンジンを停める。
制動距離を上手く利用して、豪邸の前で車を停車させ霧生はバイクから降りる。
私の両脇に手を入れると、抱き上げ降ろしてくれた。
「こ、ここ?」
驚き見上げる先にあるのは、白い壁に囲まれた白亜の豪邸。
何から何まで高級感たっぷりだ。
しかも、大きな門の上には監視カメラらしきモノがちらりと見える。
「ああ」
なんてことは無いって感じに返事をした霧生は、迷いも無くチャイムを押した。
ちょ、ちょっと待って、私の心の準備はどこに!

『今、門を開けるわね』
優しそうな声がインターフォンから聞こえると同時に、ギギギッと鉄の軋む音がして、門が内開きに開き始めた。
「神楽、ヘルメット。被ったままで行くのか?」
口をポカンと開け呆気にとらわれ、門を見つめていた私に呆れた霧生の声をかける。
「あ、ううん。脱ぐよ脱ぐ」
「その言い方、嫌らしいな」
「霧生、中年のおじさんみたいに笑うの止めてよ」
何処のエロ親父よ。
慌てて脱いだヘルメットを手渡すと、霧生は自分のそれと一緒にオープンシートへと仕舞い込み、ハンドルを押して歩き出した。

「神楽は面白れぇな」
「面白くなんて無いよ」
「まぁ、そう拗ねんな。緊張が少しは解れただろうがよ」
そう言われ気付く。
霧生とくだらないやり取りをしてる間に、変な緊張は少し緩和されてる事に。
「ん、ありがと」
「ククク、素直で宜しい」
霧生が楽しそうに笑うから、思わず私も笑顔になった。
こんな風に、過ごせるようになる事を一時は諦めたけれど、側に居られるって本当に幸せだ。


「いらっしゃい。まぁ、可愛らしいお嬢さんね」
豪邸の大きなドアが開き、そこから顔を出したのは若くて綺麗な人。
よく見ると目元が霧生に似ている。
霧生の様な大きな子供が居るようには見えないが、姉妹は居ないはずなので、消去法でいくと母親だと思う。
「わざわざ出迎えに来んなよ」
素っ気なくそう言いながらも霧生は嬉しそうだ。
「だって、早く会いたかったんですもの、ね?」
茶目っ気たっぷりにウインクした霧生のお母さん。
「あ、あの、初めまして」
「はい、初めまして。先ずは中に入って頂戴ね。挨拶はそれからよ」
彼女はご機嫌で私達を迎え入れてくれた。
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