闇の果ては光となりて
身体にバスタオルを巻き付け、シャワー室から脱衣所を覗き見るも、着替えらしきものはまだない。
霧生の奴、持ってくるとか言ってたくせにどうなってんのよ。
せっかく綺麗に洗ってボディーソープの香りがする様になったのに、もうあの海水まみれの服は着たくないよ。
「あ〜どうすんのぉ」
その場で地団駄を踏む。
着替えないと、ずっとここままじゃないか。
流石に無理だよ? 男ばっかりの野良猫の溜まり場でタオル姿で過ごす勇気はないよ。
身の危険を感じずにはいられないもん。

コンコン、ノックする音にハッとなる。
「神楽、着替え持ってきたぞ」
霧生の声がした。
急いでシャワー室に戻り、半開きにしたドアに身を隠した。
「早く着替えちょうだい」
ドアに向かって声をかければ、薄く開けたドアから着替えを持った霧生が脱衣所に身体を滑り込ませた。
シャワー室のドアをしっかり握り、顔だけ斜めに覗かせると、こちらを見た霧生と目があった。
「ククク···なんていう格好してんだよ」
「う、煩いし」
「服ここに置いとくから、頭乾かしたら出てこいよ」
「分かった」
「下着がねぇから胸には、このサラシ巻いとけ。パンツは···ねぇからノーパンな」
「なっ···」
この男、ノーパンだと恥ずかしげもなく言ってのけたよ。
恥ずかしさに私の方が顔が赤くなってるはずだ。

「子猫の癖に一丁前に照れてんのかよ。面白え。なんなら、遊んでやろうか?」
冗談めかしてそういった癖に、霧生の目は獰猛な野生のそれに見えて、思わずドキッとした。
無駄に色気を振りまかないでほしいよ、まったく。
「ありがた迷惑。着替えるから早く出てって」
しっしっと手を振れば、霧生は楽しそうな笑みを浮かべて、室内から出ていった。
ホッと胸を撫で下ろし、急いでドアに駆け寄るとしっかりと施錠した。
霧生が着替えを届けてくれるって言ってたから、鍵もかけずにシャワー浴びてたけど、それってかなり危険な行為だったよね。
自分の浅はかさに気付き目を剥いた。
もっと慎重に行動しなきゃ駄目だね。
能天気は程々にしないとだよ。
やれやれと首を左右に振り、着替えを手に取った。

明らかに女物ではないけど、フェミニンな感じのバミューダパンツとロンTだ。
誰のか知らないお借りしますね。
言われた通りに胸元にサラシを巻き付けた。
ロンTは少しぶかぶかだけど袖を折れば普通に着られそうだ。
後は···パンツか。
ノーパン···乙女として、それはどうかと思うのよ。
でも、まぁ、仕方ないや。
ええい、ままよ、と覚悟を決めパンツを履いてみた。
膝したぐらいの長さで収まったパンツ。
これならノーパンでも大丈夫そうだ。
主に精神面で、大丈夫かどうかは怪しいけどね。
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