闇の果ては光となりて
「···神楽ちゃん。良かったら、今の美琴の事を教えてもらえないかしら」
瑠奈さんは意を決した顔で私に問いかける。
「母さん···それは」
霧生が私を気遣って、瑠奈さんを止めてくれた。
「霧生、いいんだよ。私、瑠奈さんに話したい」
瑠奈さんなら、今のお母さんを救う方法を一緒に考えてくれるかも知れない、そんな気がしたんだ。
だから、私は、私とお母さんの16年をゆっくりと話しだした。
私の知らない母を知る瑠奈さんには、辛いことだったかも知れない。
悲痛な面持ちで、時折泣きそうになりながらも、彼女は私の言葉をしっかりと聞いてくれた。


「神楽ちゃん、辛かったね」
話し終えた私の前までくると、瑠奈さんは霧生を押し退ける様に抱き締めてくれた。
「な、なにすんだよ、母さん」
「霧生は黙ってて!」
抗議の声を上げた霧生に、ピシャリと言う瑠奈さん。
「んだよ···神楽は俺のだっての」
ブチブチと文句を言いつつも、霧生は瑠奈さんを私から引き剥がしたりはしなかった。
「神楽ちゃん、生きててくれてありがとう。霧生と出会ってくれて···本当にありがとう」
号泣する瑠奈さんに、私はどうしていいのか分からずに固まった。
「もう大丈夫だからね。私が、ううん、私達が貴方を守るわ。一緒に美琴を助けましょう」
迷いの無い瑠奈さんの言葉にじわりと涙が滲んだ。

「迷惑じゃないですか?」
余計な事に瑠奈さんを巻き込むのは申し訳ない気がした。
「迷惑なはずないじゃない。私も郁人も美琴と仁君には沢山助けられたもの。今度はそれをお返しする番だわ」
「···瑠奈さん」
涙で滲んだ瞳で瑠奈さんを見上げる。
「それにね。義父の事や美琴の事は貴方達子供がどうこう出来る問題じゃないわ。舞美ちゃんの件は上手く行ったかも知れないけれど。今回はそうもいかないわよ」
私に言い聞かせるように、そして霧生にも言い聞かせる様に、瑠奈さんは話す。
「そんなのやってみなきゃ分かんねぇだろうがよ」
「分かるわよ。悪ガキが足掻いてもどうにもならないわ。きちんと弁護士を立てて、美琴を男から引き離さないと、彼女は助け出せない。それに、今の美琴にはお医者様の治療が必要よ。貴方ではそこまで手が回らないでしょう」
瑠奈さんにピシャリと言い切られ、霧生は苦虫を潰したような顔になった。
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