闇の果ては光となりて
霧生の決断により、私は霧生の実家に引っ越しすることになった。
瑠奈さんは無論飛び上がって喜んでくれた。
野良猫のみんなにもそれを伝えたけれど、誰も反対はしなかった。
逆に「良かったな」って言ってくれる人が多くて、嬉しかったのを覚えてる。
光だけは、少しタダを捏ねたけど、毎日溜まり場に来ると約束したら、素直に認めてくれた。
早々に引っ越しを済ませ、私は今、霧生の家からVIP待遇で学校に通ってる。


「しかし、まぁ、忙しい子ね」
運転手付きの高級車で登下校する私に、ツッキーが笑って言った。
「うん、自分でも思う」
「でも、まぁ、私としては室町家に引き取られて一安心だけどね」
昼食のサンドイッチを齧りながら、ツッキーは私を見た。
家族から孤立していた私を、ツッキーはいつも心配してくれてたもんね
「瑠奈さんも郁人さんも良くしてくれるんだよね。かなり心苦しいよ」
「馬鹿ねぇ。向こうは娘が出来たって喜んでるわよ」
ツッキーの言う事もあながち間違ってない気がする。
特に瑠奈さんは、何かと私を構い倒してくる。
一緒に料理したり、買い物に行ったり。
この間なんか、観劇を見に連れて行ってくれた。
本当のお母さんと過ごしてる様な錯覚に陥る時があるんだよね。
「···でも、本当にいいのかなぁ」
瑠奈さんの作ってくれたお弁当を見つめ呟く。
彼女は毎朝、霧生と私の分のお弁当を作ってくれる。
一度、自分ですると言ったら、涙目でどうして作りたい! とお願いされ、今に至る。
「神楽はさ。今まで親で苦労してきたんだから、少しは大人に甘えたらいいのよ」
「ツッキー···」
「どうせ、幸せ過ぎて不安になってるんでしょうけど、こんなの普通にある幸せなんだからね。慣れちゃえばいいのよ」
ツッキーはどうして私の気持ちが分かるのかなぁ。
彼女の言う通りなんだよね。
今まで味わった事の無い幸せを沢山経験して、いつかそれが崩れるんじゃないか? って不安になっちゃうんだよね。

「大丈夫よ。人間は不幸せになった分だけ、幸せになれるって決まってるのよ。幸せと不幸せは同じ間数だけ降り注ぐの。神楽は今まで不幸せばかりを経験した分、残りは幸せだけなのよ」
「···ツッキー」
「ほら、早くお弁当食べちゃいなさいよ。午後の授業が始まっちゃうわよ」
パシッと背中を叩かれて、ブホッと噎せたのに、彼女は笑って私を見てた。
ひ、酷いよ〜ツッキー。

ツッキーの言う通りなら、私、安心して幸せになっていいのかな。
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