闇の果ては光となりて
-霧生-

「明日、母親に会いに行くのか?」
中央のソファーに座る樹弥が、壁にかけられたチーム旗を背に聞いてきた。
「うん。弁護士さんと一緒に行くの」
ね? と俺を振り返る神楽に頷いた。
神楽を胸の中に抱き抱えるようにして、ソファーにもたれていた身体を起こした。
「ああ」
「もし人手が居るなら、俺達もついていくぞ」
「サンキュ。でも、うちの両親も行くから問題ねぇよ」
樹弥の心遣いが嬉しかった。
こいつなりに、神楽を心配してくれてる。

「なら問題ねぇな。おじさん、元暴走族だしな」
冗談を言った樹弥に、俺は吹き出して笑う。
「まったくだ」
親父が族の副総長だとか笑える。
親子二代で副総長だぞ? それを樹弥達に話したら大爆笑されたんだよな。
でもよ、親子揃って同じ道を歩んでるとか、運命としか思えねぇだろ。
何かに導かれて、俺は神楽に会うべくしてここに居たんだと思うと、運命ってもの悪くねぇと思えんだよ。
お互いに苦労して、ここまで辿り着いて巡り会えた。
それたけで、奇跡だろ?
神楽を大切にしねぇと、神様にバチを与えられちまうな。

腕の中でウトウトと船を漕ぎ出した神楽を、落とさねぇ様に腹に回した腕に力を込めた。
小さくて華奢な神楽。
誰にも守られずに、1人で頑張ってきたこいつを、これからはドロドロに溶けるぐれぇに甘やかしてやりてぇ。
俺だけを見て俺だけに依存してくれりゃ、それでいい。
こいつにそれを求めても無理だろうな。
自由気ままに放し飼いにするのが、子猫にとって一番いいんだと思うんだよ。

「お前、随分と優しい顔をするようになったな」
「えっ?」
自分じゃそんなの分かんねぇよ。
「あの女に取り憑かれてたお前は、ピリピリしていつも張り詰めてた。神楽と出会って接するようになって、随分と良い顔が出来る様になったと思うぜ」
樹弥はクククと笑う。
腕の中の神楽の力がクタリと抜けて、こいつが完全に寝入った事を知らせた。
本当、寝るの早えぇな。

「樹弥にも、すっげぇ迷惑を掛けたな」
今までを思い出す。
「んなの、いい。俺に謝る分だけそいつを幸せにしてやってくれ」
「言われなくても幸せにしてやるよ」
「簡単に手を出すんじゃねぇぞ」
「はぁ? どんな苦行だよ」
「結婚するまで純血を守れよ」
「お前、まじで神楽の親父かよ」
呆れた様に笑った俺に、樹弥は眉を寄せた。

「···っ、お父さん」
聞こえた神楽の寝言に、俺達は吹き出す。
「どんなタイミングの良さだよ!」
神楽の頬を突っついた。
「やっぱり俺は···親父か」
面倒臭せぇぐらいに落ち込んだ樹弥を置き去りに、俺は神楽を抱き上げた。
ここは、さっさと退散するの得策だ。


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