闇の果ては光となりて
-霜月-

室町家の車で迎えに来てくれた神楽と一緒にやって来た東高祭。
門の前に手作りの大きなアーチと机を二脚設置した受付がある。
乗りのいい音楽と、賑やかな声が辺りを包んでいた。
カラフルな頭をした連中が多いのは、ここが不良校だからでしょうね。
車から降りた私達に値踏みする様な視線を向けてくる連中に、チッと舌打ちして冷めた視線を向けた。

全く、初っ端からこれじゃ後が思いやられるわね。
特にケバい化粧をしたそこの連中!
何か言いげにこっちを睨んでくるんじゃないわよ。
「面倒臭いわね」
「ツッキー、まだ東高内にも入ってないよ」
苦笑いで私を見上げた神楽。 
「入る前からウザさ満開じゃない」
「まぁ、確かにそうだけど」
私の目線の先を見て肩を竦めた神楽は、クスッと笑う。
室町達と一緒にいるこの子は、普段からこんな視線に慣れてるんでしょうね。
樹弥と付き合うと、もれなくこの視線が常についてくるって事かしらねぇ。
それはそれで、面倒臭いわね。

「神楽!」
その声と同時に周囲に黄色い悲鳴がこだまする。
割れた人波の向こうから、室町と樹弥達が黒い学ラン姿で駆け寄ってくる。
キャーキャー! 色めき立つ女子生徒達にげんなりとした。

「霧生」
神楽は自分の前までやって来た室町を愛らしく微笑んで見上げる。
「迷わず来たか?」
嬉しそうな顔で神楽を抱き上げると、周囲を気にする事なく神楽の唇にキスをする室町に、悲鳴が響き渡る。
全く、何をやってるんだか。
大体、車なんだから迷うはずないでしょうよ。
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいから止めて」
ほら、神楽の反撃に遭うのよ。
でも、顔を真っ赤にしてポカスカと室町の胸元を殴る神楽は、怒ってるんだけど、どう見ても可愛いだけなのよね。
「ククク、可愛いだけだな」
「う、煩い。早く降ろして」
「無理だ。お前が誰のモノなのかを、しっかり知らしめとかねぇとな。樹弥、先行くぞ」
室町は満足げに口角を上げた後、樹弥にそう告げると神楽を抱き上げたまま校内へ向かって歩き出した。

「あ、もう! ツッキー!」
室町の肩越しに私の方へと手を伸ばした神楽に、
「適当に過ごすから、そっちはそっちでやんなさいよ」
ひらひら手を振った。
独占欲丸出しの室町が、神楽を手放すはずは無いだろうし、無駄な事はしないのが一番よね。
「全く、霧生のヤツは仕方ねぇな」
いつの間にか隣にいた樹弥がクスクスと笑う。
「神楽を大切にしてくれるなら、多少の事は目を瞑るわ」
そう、あの子を幸せにしてくれるなら、それでいい。
1人だと泣いてた神楽がもう一人ぼっちじゃないなら、十分よね。
遠ざかっていく2人を見つめゆるりと口角を上げた。
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