闇の果ては光となりて
周囲の喧騒が包む中、私達の間に少しの沈黙が流れる。
居心地の悪さに、小さく息を吐き出したのは仕方ない。
そんなに甘い視線を向けられるのは、慣れてないのよ。
今まで付き合った事が無いわけじゃないけど、お互いにラフな感じの付き合いだったから、こんなにも情熱的に思いを伝えられた事は無いのよね。
神楽の事を恋愛初心者だなんて、笑ってる場合じゃなかったわね。
私もこんなのは慣れてないわ。

「そんな困った顔すんなって。お前を困らせたいわけじゃねぇ。ほら、何か食おうぜ」
樹弥はそう言って笑うと私の手を引いて歩き出す。
途端に周囲で上がる黄色い悲鳴と、嫉妬に駆られた視線がこちらに向かってくる。
ケバケバしい化粧をした女達が隠す事なく私を睨みつける姿にやれやれと溜め息をついた。
この男は大層モテるようね。
まぁ野良猫の総長ともなると、こんなものよね。
神楽が普段、女達の視線がウザいって言ってたのがよく分かるわ。
「私、あれが食べたいわ」
面倒臭い視線を無視して、目に止まった屋台を指さした。
「焼き鳥かよ」
クツクツ笑う樹弥。
「おっさん臭いって言いたいんでしょ?」
フンッと鼻を鳴らして睨みつける。
「いや、そうじゃねぇけど。霜月って感じがしただけだ」
「何よそれ」
「ほら、膨れっ面してねぇで、買おうぜ。おい、二本くれ」
優しい目をして笑った樹弥は、屋台の前まで行く。
「あ、総長。お疲れ様です」
「ああ、どうだ? 繁盛してるか?」
「はい、お陰様で。彼女さんっすか? すっげぇ綺麗な人っすね」
ニカッと笑った生徒は、肉のたっぷりと刺さった焼き鳥を差し出しながらそう言う。
「いや、神楽の友達だ。まだ彼女じゃねぇよ」
意味深に笑うと樹弥は料金と引き換えに焼き鳥を受け取る。
「神楽ちゃんの友達っすか。やっぱ可愛い子の友達は綺麗な子なんすねぇ」
「まぁな。じゃあ、頑張れよ」
「了解っす」
樹弥に敬礼した生徒は私に向かって会釈してくれた。
会釈を返し、再び樹弥に手を引かれ歩き出す。



「ここだったら、静かに食えるだろ?」
と言って連れて来られたのは体育館裏。
遠くで喧騒が聞こえるけれど、ここは静かで落ち着けた。
「しかし、東高祭は人が多いのね」
西高祭より随分と盛り上がってる気がするわ。
まぁ、うちは進学校だから、こう言った催しにあまり力を入れてないってのも要因だけど。
「ほら。まぁ、うちは在校人数も多いからな。それに馬鹿騒ぎが好きな奴が色んな所から集まってくるしな」
「ありがと。そうなのね」
差し出された焼き鳥を受け取りながら返事を返す。
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