闇の果ては光となりて
「···分かった。辛い事を話させて悪かったな」
そう言った総長が辛そうに見えて、思わず顔の前で手を振った。
「いえいえ、大丈夫です。こんなの慣れっこですから」
「そんなもん、慣れてんじゃない」
はぁ、と溜め息を漏らした総長。
いやほんと、慣れてるんですって。
辛いと思えば思うほどしんどくなるなら、慣れちゃうほうがいいってのが、私の持論です。

「馬鹿が! 辛い時は辛いって泣かねぇとここが壊れんだろうがよ」
悲痛な面持ちでそう言った霧生は、自分の胸元を指で指し示した。
「泣くの苦手なんだよね」
エヘヘと肩を竦めれば、霧生に抱き締められた。
ふわりと私を包む爽やかな香りは、霧生の付けてる香水なのかな。
伝わる霧生の温もりに、得体の知れない何かが胸の奥からせり上がった。
なんだろう、この感情は。
「もう、一人じゃねぇ。俺達が側にいて守ってやるから、感情を殺さなくてもいい」
頭の上から聞こえてきた霧生の声は、心地の良い優しさを含んでいた。
「守られるだけじゃ嫌だよ。私だって守りたいもん」
与えられるだけ、守られるだけの弱い女の子にはなりたくないよ。
「ククク···やっぱお前いいな。守ってって縋ってこねぇ辺りが普通じゃなくていいわ」
すくすく笑いだした霧生は、自分の胸元から私を引き離すと目尻を下げたまま近い距離で私を見下ろす。
あぁ、吹き出物が一つもない綺麗な艷やかな肌だなぁと考えた後、心臓が爆発しそうなぐらい騒ぎ出した。
体中の血液が沸騰した様なそんな感覚に戸惑いを感じ、困った私は赤くなってるだろう顔を隠す為に俯いた。
反則だ···その顔は反則だよ、霧生。
美形の顔は近距離で見ちゃいけないと思います。

「あ〜霧生ばっかりずるぅ〜い。僕も神楽ちゃん抱き締めてあげたいよぉ」
ブーブーと! 騒ぎ出した光。
「ば〜か! やらせるか」
意地悪な声でそう返す霧生は、子供っぽいと思うよ。
「総長、言ってやってよぉ。独り占めは駄目だって!」
霧生から総長に怒りの矛先を変えたらしい光。
「お前は後で神楽と出掛けるから、その時に好きなだけ抱きつきゃいいだろ」
呆れ半分の総長のセリフに、後で出掛けるって何だろうと首を傾げる。
「ちょ、ちょっと離してよ、霧生」
激しい鼓動を打つ心臓に静まれと命令しながら、霧生の胸元を押した。
思っていたよりも、あっさりと開放された身体。
無くなった温もりを寂しいと思ったのは、きっと気のせいだ。
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