闇の果ては光となりて
流れていた音楽が少しボリュームを落とし、踊っていた人達もダンスを止め歓談を始めると、コウが私の手を引いた。
「一回休憩しようぜ。喉乾いてねぇ?」
「うん、乾いた」
「バーカウンターに行こうぜ」
熱気とダンスで息の上がった身体を落ち着かせながら、コウに手を引かれバーカウンターへと向かう。 
先程までとは違いフロアーに流れるのはバラード。
どうしたのか? と店員達が忙しく動く姿を不思議に思って見ているとコウが教えてくれた。
「イベントの準備をしてんだよ」
「イベント?」
首を傾げ、コウを見上げる。  
「ああ。盛り上げる為に一日に2回企画されてんだよ。DJのマイクパフォーマンスとミキシングとかな」
「へぇ、そんなものあるんだ」
「結構盛り上がるんだぜ」
「そっかぁ、楽しみ」
初めての体験にドキドキワクワクした。
胸が弾むってこういう事を言うんだろうな。

バーカウンターに到着した私達はそれぞれ飲み物を受け取り、壁際のテーブルまで下がった。
背の高い丸いハイテーブルに肘を付き、フロアーを見渡すと、色々な光景が目に入った。
カップルで顔を寄せ合い楽しむ人達、楽しそうに談笑する男性グループや女子グループ。
それに、ナンパをしてる男の子達や、それ待ちの女の子達。
出会いを求めやって来てる人の多さに少し驚いた。
最近のナンパは街中じゃなくて、こういう所で行われてるんだね。
気持ちの高ぶってる中でなら、チャンスは無尽蔵に転がってるような気がした。
人間観察がちょっと楽しい。
バーカウンターで貰ってきたオレンジジュースで、乾いた喉を潤しながら、客達の動きをぼんやりと見つめる。

「元気になったか?」
不意にテーブルを挟んで対面に立ってたコウが話しかけて来た。
「えっ?」
「お前、最近あんま元気ねぇだろうがよ」
「そうだった?」
自分では普通だった様な気がするんだけど。
「はぁ···分かってねぇならいいわ。とにかく、今日は色んな事を全部忘れて楽しみやがれ」
ぶっきらぼうにそう言うコウは、やっぱりツンデレだと思う。
「うん、そうするね」
この状況で楽しまない訳がない。
いつもより気持ちも軽いもん。

「コウはここに結構来るの?」
「あ〜まぁ、むしゃくしゃした時の気晴らしにな」
「コウの嫌いな女の子が大勢居るのに大丈夫なの?」
今は私が一緒に居るから逆ナンとかされてないけど、コウ狙いの女の子の視線はチクチクと刺さってる。
「こう言う場所は難攻不落を狙うより、手近な相手を選ぶんだよ。だから、俺に声を掛けてくる勇気のある奴はそういねぇ」
「自分で難攻不落とか言っちゃうんだ」
「うっせぇよ」
くすくす笑った私に、コウは眉間のシワを寄せた。
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