闇の果ては光となりて
「はぁ···どうしてこうなったんだろう」
カウンターに手を付き大袈裟なぐらいの溜め息をついた。
家を飛び出して、防波堤で海を眺めてただけだったのに。
朝まであそこで時間潰しして、夜の仕事から帰ってくる母親の帰宅時間に合わせて荷物を取りに戻ろうと思ってたはずなんだけど。
どうして、私は野良猫の溜まり場になんているんだろうね。
暴走族なんて、一生関わることのない人種だと思っていたのに。

「···はぁ、なんだかな···うわっ! 髪の毛が〜」
項垂れたまま視界に入った鏡に映った自分の姿を見て、驚いて声を上げる。
霧生の言ったように、そこに貞子がいたよ。
女子として、こんな姿を見られただなんて大切な何かを失ったような気持ちになる。
無理だ、このままで居るなんて我慢できないよ。
シャワーを浴びるしかない、そう決意して斜めがけしていた小さなポーチを肩から降ろした。
海水でずぶ濡れのそれには、咄嗟に引っ掴んで押し込めてきた財布と携帯だけが入ってた。
止め金をきちんと止めていたおかげで、海に落っこちなかったらしい。
よかったぁ、と胸を撫で下ろし、カラーボックスから拝借した乾いたタオルに財布と携帯を挟み込んだ。
少しでも水分を取りたい。
さぁ、シャワー浴びよう。
籐の籠を一つ借りカウンターに置き、手早く服を脱いだ。
海水で重みの増した衣類は、かなり脱ぎにくかったけど、洗面台で水を絞り籠の中に畳んで入れる事は出来た。
服を脱いじゃったんだから、後は野となれ山となれだよね。
自分に言い聞かせシャワー室のドアを潜った。
冷えた身体を温めないと、本格的に風邪を引いちゃうよ。

蛇口を捻って出てきた温かなお湯に、ホッと落ち着いたのは間違いない。
考えないといけない事が山積みなのは分かっているけど、今はこの温もりに身体を預ける事に専念しよう。
今の状態で、グダグダ考えても何にも始まらないんだしね。
何かを吹っ切れた様にクリアになった脳内。
結構私って、応用力あるのかもね。
なんて、呑気に思いながら、貞子を止めるべく泡立てたシャンプーで髪を洗ったのだった。
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