闇の果ては光となりて
大きな通りに出るとコウはスピードを上げた。
今まで私を乗せてこんなにもスピードなんて出したことないのに。
前から来る風圧に飛ばされないように、コウのお腹に回した腕にいつもよりもしっかりと力を込めた。
振り落とされちゃ堪んないもん。
本当にコウはどうしちゃったの。
ブオンブオン···何かを威嚇する様にアクセルをふかせ、コウは街をハイスピードで駆け抜ける。
道路を通行する車両は、突然現れたバイクに驚きながらも道を譲っていく。
景色なんて見ていられる状況じゃなかった。
吹き飛ばされない様にコウの身体にしがみつき、彼の背中に顔を埋め続けた。

どれだけ走ったのかな?
時間の感覚も、場所の感覚も全くない。
初めて経験するスピードと体感に何も考えられ無くなっていた。
ただ、私が出来るのはコウにしがみつく事のみで。
左右に振られる身体に落とされたく無いと、必死に神に祈り続けた。

コウの運転するバイクは次第にスピードを落とし始める。
香ってきた匂いは塩の香り、それに気付いてコウの背中から顔を上げた。
暗闇に包まれたそこは見えなくて。
ジッと先を見据え、目を凝らすと次第に慣れてき視界が捉えたのは···。
「海岸線···」
波の音に耳を澄ませる。
野良猫に入るまで1人でよく聞いていた懐かしい音だ。

「かっ飛ばした気分はどうだ?」
前から聞こえてきたコウの声。
「かっ飛ばしたのはコウだよね」
「ククク、そうだな。でも、全部モヤモヤした物が吹き飛んでねぇか?」
そう言われ、ウジウジ考えていた気持ちがすっかり吹き飛ばされてる事に気付いた。
あぁ···コウは私の気持ちのモヤモヤを吹き飛ばそうと、バイクを飛ばしたんだね。
本当、分かりにくいよ。
私はコウが何かにキレて、むしゃくしゃした気持ちを抑えられなかったんだって勘違いしてたし。
私の為だったなんて、本当に不器用すぎる。

「ありがとう、コウ」
コウの腰に巻き付けた腕にキュッと力を込めた。
バイクをゆっくりと路肩に止めるとコウが振り返った。
「泣くのを我慢して溜め込んでんじゃねぇぞ。血色の悪い顔で大丈夫振りされても、丸わかりなんだよ」
「···コウ」
「泣きたい時に泣いとかねぇと、壊れんだよ。ここがよ」
自分の胸を力強く押したコウ。
そんな彼の言葉に自然と涙が零れ落ちた。
もう···霧生と同じ事言わないでよね。
苦しくて仕方ないよ。
霧生を諦めないといけないこと。
側にいられるだけでいいと思っていたのに、彼女と一緒に居る霧生を見てるの、辛いよ。
私···どうしたら、いいんだろうね。
本当、もう、分かんないよ。
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