闇の果ては光となりて
コウの背中に額を寄せ、流れて落ちてくる涙を自分の腕で堰き止めながら、声を上げて泣いた。
霧生を思う気持ちを心の奥にしまうと約束するから、だから今だけは泣かせて欲しい。
コウは黙って、ただ黙って私に背中を貸し続けてくれた。
そんな優しさに守られた私は、きっと幸せ者に違いない。



「コウ、ありがとう。もう大丈夫だよ」
コウの背中から顔を上げ、ゆっくりと深呼吸した。
「何があったのか聞かねぇ」
「うん」
「でも、お前は1人じゃねぇって覚えとけ」
「うん。そうだね」
「分かったなら、ラーメン食いに行くか。腹減った」
「本当、お腹空いたね」
ぶっきらぼうなコウにクスッと笑って頷いた。
「よし、しっかり掴まれ。ラーメン屋までノンストップで行くぞ」
「了解。今度は安全運転でよろしく」
「ククク、分かってる」
敬礼した私にコウは、口元に笑みを浮かべ前を向いた。
エンジンが掛かると、ここに来た時とは正反対にゆっくりと走り出すバイク。
コウのお腹に回した手も、力を入れなくても大丈夫そうだ。
今度はゆっくりと流れる景色を楽しみながら、街へと戻っていく。
悩みや苦しみから開放された訳じゃないけれど、それでも前向きに行こうと思えたのは、コウの何気無い優しさに支えられたからだよ。
幼馴染ポジションのコウが、本当の幼馴染みたいに思えて、嬉しくなった。
霧生の事もどうしていいのか、まだよく分からないけど。
少し距離をおいてみようと思うんだ。
そうしたら、何かが見えてくるかもしれないもんね。

みんなが言ってくれる「1人じゃない」って言葉は、私にとって魔法の言葉だよ。
今はまだ闇の中を彷徨っている私だけど、いつか光の指す場所で生きる事が出来る気がしたのは、多分気のせいじゃないはずだ。



「コウ、狡いよぉ」
コウと出掛けた事を知った光が騒ぐ。
「はぁ? お前も遊びに出掛けてたじゃねぇかよ」
「呼んでくれたら戻ってきたしぃ」
「知るか、んなもの」
「ズルいったら、狡いよぉ」
「耳の側で叫ぶんじゃねぇよ」
猫みたいに戯れ合う2人に笑みが漏れる。
「朝からうるせぇぞ!」
総長の鶴の一声が飛ぶ。
シュンとした光と不貞腐れたコウ。
朝から幹部室に集まったのは、霧生を除く私達4人。
今日が日曜だってのもあり霧生はまだ寝てるみたい。

「神楽、楽しかったか?」
総長にそう聞かれ、
「あ···うん、楽しかったかな」
少しぼやかして答えた。
「···そうか。まぁあんま思い詰めんな」 
この人は、一体何処まで見透かしてるんだろう。
深く聞いてこない辺りが、総長の優しさだと思うんだ。
エスパーな総長に、苦笑いを浮かべ曖昧に頷いた。
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