闇の果ては光となりて
「じゃあ、親父、俺出掛けてくるわ」
立ち上がったコウは悪い顔で、スチャッと手を上げた歩いていく。
や、止めたげて。
「お父さん、僕も行ってくるね」
だから、光も止めて。
総長の顔が見られなくなっちゃうよ。
幹部室を出て行った2人、総長から漂ってくる仄暗い空気に息が詰まる。
「神楽、俺達も行くか」
「あ、そ、そうだね」
霧生の言葉に、天の助けとばかりに頷いた。
「霧生。神楽は置いていけ。話があるからな」
ひぃぃ〜総長の声が低いよ。
「それは総長命令か?」
「ああ」
「なら仕方ねぇな。神楽、いい子でいろよ」
私の頭を一撫でして立ち上がると、霧生はドアへ向かって歩き出した。
仕方なくなんてないから、置いてかないでぇ。
霧生の背中を願いを込め見つめても、それの願いは虚しくも届かない。
パタンと閉まるドアの音、それは総長と2人きりになった事を知らせる合図だった。

「···神楽」
名前を呼ばれギギギと首を動かした。
「···総長」
本気でごめん。
「バ〜カ! そんな怯えなくても別に怒るつもりはねぇよ。ちょっと心にしこりが残ったぐらいだ」
それ! そのしこり残っちゃ駄目なやつですから。
「えっと···その···ごめんなさい」
「嘘だ。しこりもねぇよ。お前に話しておきたい事があるんだ」
「···うん」
本当に話があったから残されたらしい。
「鬼夜叉の周辺とお前の事を漏らした学校の奴らの事を調べると言ってたよな?」
「あ、うん」
総長がそんな事を言ってた様な気がする。
私の中で鬼夜叉が遠い過去になってたので、すっかり忘れてたけど、総長はきちんと調査をしてくれてたらしい。

「裏が取れて確証が持てたから、神楽に話しておこうと思ってな。霧生達には先に伝えてある」
「あ、うん、そっか」
「お前の事を話して、学校の女と鬼夜叉の岸部を上手く操ったのは十中八九鮎川舞美で間違いねぇ」
「えっ? 嘘」
舞美さんが? あんなに儚げに霧生が好きだと泣いてた人だよ。
「学校の女達はたまたま目を付けられて話を持ち掛けられた。だけど、岸部はあいつの兄貴と鮎川舞美が昔から繋がってたんだよ」
「···だからって」
混乱する思考。
あの日の舞美さんの涙を思い浮かんで、そんな筈ないって思う私が居た。
私も最初は彼女の事を疑ってたけど、あの日に話してそんな事は無いって思い直したのに、どうして。

「神楽、人を信用する事は悪い事じゃねぇ。でも、現実が見えなくなるのは駄目だ」
「舞美さんが、黒幕だったなんて。霧生が辛過ぎるよ」
「霧生は端からあの女を疑ってたぞ。その上で情報を得る為に鮎川舞美と過ごしてた。今はあの女が変な動きをしねぇ様に監視の意味も含めて会ってる」
総長の言葉に、私のあの決意は何だったのかと項垂れた。
しかも、何も知らずに避けようとしていた霧生に、守られてただなんて、私はなんて馬鹿なんだろう。
< 87 / 142 >

この作品をシェア

pagetop