闇の果ては光となりて
-霧生-


子猫を拾った。
親猫と逸れ自らの身を守る為に威嚇する怯えた子猫。
防波堤で寂しげなそいつの背中を見つけた時、自分と同じ闇を抱えてるんじゃねぇかと思った。
どうしてだか分かんねぇけど、ただ漠然とそう感じた。

こいつを助けてやりてぇ、そんな傲慢な考えが頭に浮かんだ瞬間、俺は走り出していた。
助けるつもりが勢い余って2人で海に落ちたのは、まぁ笑い話だな。

退屈な毎日に飽き飽きしながら、夜の海岸線をバイクで流していた俺が見つけたのは、今にも自殺しそうな女。
長い黒髪を海から吹き上げる風にたなびかせ、今にも生を捨てちまいそうなそいつの顔が月明かりに照らされたのを綺麗だと思ったのは、どうしてだろうな。
爆音響くバイクで近付いて気づかれちゃ駄目だと、わざわざバイクを溜まり場に置きに行っただなんて、俺を知る連中に聞かれたら、笑い飛ばされちゃまうかもな。

野良猫の副総長としてそこそこ有名な俺の顔を知らなかったのには驚いたが、それも新鮮だった気がする。
濡れ鼠の癖に、弱さを見せないように威嚇してくる女は、やっぱりどう見ても子猫で。
溜まり場に連れ帰ったのは、俺の気まぐれ。
何となく、あの場で手放すのは惜しいと思っちまったんだ。

小さななりをしてる癖に、意志の強い瞳をした女の名前は望月神楽。
黒目の大きな二重、左目の下に愛らしい泣きぼくろがあって、小顔の神楽は少し幼さを残していた。
まぁ、こういうの天然の美少女だとか、光なら言いそうだな。
過保護欲をそそる神楽を、自分だけに懐かせてみたいと思ったのは本能だったのかも知れねぇな。
俺に、そんな資格なんてねぇってのに。

大部屋でシャワーを軽く浴び、あいつに合いそうな服を探す為、二階の個室へと向かった。
早くしてやらねえと、出てきちまうな。
通路を歩いていると、前から歩いてきた光とすれ違う。
「霧生、帰ってきたの? 何だか一階が騒がしいけどどうしてだか知ってる?」
小首を傾げ、小柄な身長であざといまでの愛らしさを見せる癖に、こいつは喧嘩上等のうちの切込み隊長。
松坂光(まつざかひかる)16歳。
茶髪をシルクマッシュにカットし、前髪に白いメッシュが何筋か入れてる野良猫一番のお洒落なやつ。
こいつに群がる女達は八重歯が可愛いとキャーキャーと騒いでる。

「光、お前170センチぐらいだったよな? 半パンとTシャツ貸せよ」
うちの幹部で一番小さいこいつの服なら、神楽が着れるかも知れねぇ。
「ちょっとぉ、僕の質問無視してカツアゲなの? まぁ身長は170センチ弱だけどさ」
アヒル口で不服そうに返してくる。

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