闇の果ては光となりて
「苛ついて吸っちまったけどな」
苦笑いで前髪をかき揚げた霧生。
「ううん。大丈夫だよ」
「そうか。で···これからについてだけどな」
大股開きで腰掛けていた霧生が、足を組みこちらを見た。
「うん」
私は佇まいを直し、霧生を見つめる。
「舞美が迷惑かけて悪かったな」
「···ううん」
彼女の事で霧生が謝るのは、何だか嫌な気分になった。
「神楽に手を出した以上、これ以上はあいつを放置出来ねぇ。野良猫に対する敵対だと総長達は考えてる」
「···うん」
「俺だけの問題じゃなくなった。ズルズルと放置してきた俺の責任なのは間違いねぇが、舞美も調子に乗り過ぎた。だから、俺の手で引導を渡す」
そう言った霧生の顔が苦しそうで、私まで苦しくなった。
「そっか」
「俺があいつに付けた傷は大きい。それでも、もう一緒に居る事は出来ねぇ。互いの傷を舐めあってても、先に未来はねぇからな」
霧生の表情を見てると、少なからず舞美さんに対する情があるのが分かる。
幼馴染だもんね、私なんかよりずっと多くの時間を一緒に過ごして来たんだもん。

「霧生は償って来たと思うよ」
彼女と一緒に居る覚悟を決めて、霧生なりに彼女に尽くしてきた筈だ。
「なら···良いんだけどな」
霧生の中には後悔と罪の意識が残ってる様な気がした。
彼女を思う霧生が居ることに、やり切れない思いが募った。
「霧生、ごめんね。何も知らずに避けたりして」
総長に教えて貰うまで、ずっと独りよがりだったよね。
「いや、俺もお前に何も言ってなかったからな。お互い様だろ」
ポンポンと私の頭を撫でた霧生の手の優しさに、泣き出してしまいそうだった。
普段は俺様な癖に、こんな時だけ優しいなんて狡いよ。

「霧生は狡いな」
「何がだよ。意味わかんねぇわ」
「分かんなくていいよ」
私の小さな呟きに反応した霧生に、プイっと顔を背けた。
「ククク、うちの子猫は気難しいな。それより話の続きだ。七夕暴走の日に、舞美は最後の計画を立ててる。その日に決着を付ける」
「うん」
「あいつは岸部の兄貴を使って、何かを仕掛けてくるだろう。舞美の狙いは神楽、お前だ。絶対に俺達が守り切るって約束するから、舞美の誘いに乗った振りだけしてくねぇか?」
「分かった。顔に出ない様に頑張るね」
私、直ぐに顔に出ちゃうから気をつけないとね。
「ああ。今度の暴走には舞美が来る事になってる。本来なら樹弥が許可なんか出さねぇが、今回は特別だ。岸部の兄貴と舞美を一網打尽にする」
「私のせいでチームに迷惑掛けちゃうね」
「何言ってんだ? お前は野良猫の一員だろうが。仲間を守る為に俺達は結束するだけだ」
「うん。嬉しい」
霧生の言葉に胸が熱くなった。
私は野良猫、チームferal catの一員だ。
正々堂々と戦ってやろうじゃん。
口元を自信たっぷりを持ち上げれば、霧生が優しい瞳で私を見据え、それからゆっくりと抱き締めた。
ドキドキと有り得ないぐらいに鼓動を打った心臓に、少し落ち着けと言い聞かせ彼の胸に顔を埋めた。
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