闇の果ては光となりて
-霧生-

ククク···この状況で寝るのかよ。
自分の胸の中で、穏やかな寝息を立てる神楽に笑みが漏れる。
顔を覗き込み、顔に掛かった髪を指でそっと避けてやると、少し身じろぎした神楽。
この体制じゃ辛いだろうと、膝枕で横たわらせた。
「ん···っん」
どんな夢を見てるんだろうな、悲しい夢じゃねぇといいのにと願った。

神楽が攫われて、それに舞美が関与してると樹弥に指摘された時、やっぱりなって気持ちとまさかって気持ちが混在した。
あの時の俺は、舞美が変わってくれてると信じたかったんだろうな。
でも、調べれば調べる程、舞美は黒に近くなり、落胆と怒りで頭の中がグチャグチャになった。
神楽を狙われた事に、猛烈に腹が立った俺は舞美を問い詰めようとして、樹弥に止められた。
『それじゃあ、今までと変わらねぇ。証拠を突き付けて言い逃れ出来ねぇようにして引導を渡せ。仲間を傷付けられて、甘い処分じゃチームの連中は納得しねぇぞ。もちろん俺もな』
怒りを含ませた樹弥の言葉は、俺を冷静に引き戻した。
俺達の関係のねぇ所でする悪さには、多少目をつぶれても、仲間を狙われりゃ黙ってる訳には行かねぇんだ。
たとえそれが、舞美であったとしてもな。
あいつに付けた大きな心の傷に、俺なりに向き合ってきたつもりだったが、もうそれも出来ねぇわ。
男としての責任を放棄するのかと言いたきゃ言えばいい。
だけど、俺はもう守るべき者を履き違えたりしねぇ。
神楽の寝顔に目を落とす。
俺の子猫···大切な俺だけの子猫。
いつの間にかチームの連中の心をすっかり掴んじまったが、それでもこいつは俺の物だ。


「話せたか?」
そう言いながら幹部室に入ってきたのは樹弥。
「ああ」
「ならいい。一人か?」
ゆるりと満足げに口角を上げた後、樹弥は部屋に視線を彷徨わせた。
ソファーの背もたれの影に隠れた神楽を探してるらしい。
「ここで寝てやがる」
自分の膝を指差せば、歩いて来た樹弥は背もたれ越しに覗き込んできた。
「···はぁ、寝てんのかよ。全く肝が座ってるって言うか、呑気っていうか。本当、緊張感のねぇ奴だな」
大きな溜め息を漏らし、クツクツ笑った樹弥は、自分のソファーへと腰を下ろした。
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