闇の果ては光となりて
「チッ···うぜぇ。目障りなんだよ、あの女」
不機嫌にそう言ったのはコウで、憎しみを込めた視線を舞美さんへと向けている。
「あら奇遇ね、私もあれは気に食わないわ」
コウに同調したのはツッキー、露骨に不快な顔を隠さず彼女を見据えてる。
ツッキーの遠慮ない物言いに、総長達が苦笑いを浮かべたのは言うまでもない。
「霧生、もう行け。暴走は打ち合わせ通りだ」
「樹弥、神楽を頼む」
「ああ、任せろ」
総長が頷くのを確認して、霧生は私に視線を戻す。
「いい子にしてろよ」
いつもなら、ここで頭を撫でられるのに、それが無かった事を残念に思いながらも頷いた。
「···うん。霧生もね」
「ああ」
頭を撫でる代わりに心配してると言う表情を私にくれた後、霧生は舞美さんの方へ向かって駆け出した。
ふわりと風に翻る白い特攻服に、切なさが込み上げた。
霧生は舞美さんの運転する車で最後尾をついてくる手筈になってる。
一緒にいられない事実が、私の寂しさを助長させた。

「神楽、あんな女に騙されたのね。性格の悪さが滲み出てる様な顔してるのに、分からないなんて情けないわね」
舞美さんを見据えたままのツッキーが、辛辣な物言いで言い捨て溜め息を落とした。
「···だって」
あの時は本当に、彼女に同情してしまったんだよ。
「だってじゃないわよ。あの女、相当腹黒いわよ」
ああ、ツッキーが平常運転だ。
そんなツッキーに私の心の憂いが晴れていく。
「おぉ、お前、よく分かってんな」
「神楽と違って人を見る目はあるつもりだもの」
コウの声掛けに、当然でしょうって顔で微笑むツッキー。
「ツッキー、さり気なくディスるの止めてよ」
情けない顔でツッキーの腕に抱き着いたら、
「あれ見てみなさいよ。あんな目の出来る女は相当底意地が悪いのよ」
ツッキーにつられ視線を向ければ、舞美さんが自分の元に駆け寄ってきた霧生に、両手を伸ばし抱き着きながら、挑発的に私に微笑んだ。

胸の奥がキシっと音を立て歪む。
でも、そのまま落ち込んだりしないのは、すぐ側に私を励ましてくれる存在が居てくれるから。
「あんなのに負けるんじゃないわよ、神楽」
ほら、今だって口調はキツいけど私を見下ろすツッキーの瞳は優しいんだよ。
「うん、負けないよ」
みんなと一緒に戦うって決めたもん。

「さぁ、そろそろ時間だ。行くぞ」
総長の声が周囲に響くと、一斉に動き出す野良猫のメンバー達。
それぞれがバイクに跨がり配置につく。
「じゃあ、ツッキー、行ってくるね」
「ええ。楽しんでおいで」
ツッキーは自分を見上げる私の頭にポンと手を置く。
私はそれに目を細め、ゆっくりと彼女から離れると、先に歩き出した総長を追い掛けた。

今日の私は総長と一緒に総長車に同乗する事になってるんだよね。
暴走中のバイクに二人乗りは危ないって、みんなが反対するんだもん。
本当、みんな過保護過ぎるよ。
唸りを上げる集団に目を向け、高揚する気持ちを抑える事なくゆるりと口角を上げ、私は後部座席へと乗り込んだ。
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