シンデレラは真夜中に踊る
「……ねえ、こっち向いてよ」

雫の声が、いつものような明るい雰囲気ではなくなる。真面目で、緊張したような声。

北斗は、迷った。振り向けば「引っかかった〜!」と言われていたずらをされたこともある。

しかし、「ねえ…」ともう一度雫が言うと北斗は雫の方を向くしかなかった。逆らえない不思議な空気があったのだ。

「ダンスパーティー、誰か誘ったの?」

そう訊ねる雫の顔は、まるでダンスを踊っている時のように大人びている。

「い、いや…。僕はその……ダンスなんて…」

この高校では、クリスマスイブの前日の夜にダンスパーティーが行われる。生徒たちは美しいドレスやスーツを着て、誘った相手とダンスを踊って過ごすのだ。

ダンスパーティーで踊る曲は、シンデレラのようなワルツではない。自由に音楽に合わせて踊る。しかし、ダンス経験のない北斗はパーティーに出席することを少し考えているところだった。

女子生徒は、パーティーのためいつも以上におしゃれをする。楽しみにしている女の子を自分のせいでがっかりさせたくないのだ。
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