相思相愛ですがなにか?

「おかえりなさい、伊織さん」

足音を忍ばせて部屋に入ると、俺が帰ってきたのを見計らったように月子ちゃんが声を掛けた。

付箋を挟んで読みかけの本をサイドテーブルに置き、ベッドから起き上がると、俺のもとに駆け寄ってくる。

「起きていたんだ?」

「はい。なんだか眠れなくって……」

寝ているだろうと予想していたのに、月子ちゃんは律儀にも俺を待っていたようだ。

先に寝ていてくれた方が良かったのにと思ってしまうのは否めない。

寝ている時も可愛いが、動いている月子ちゃんはなお可愛い。

俺の帰りを待っているけなげさと相まって彼女を抱き締めてしまいたい気持ちを誤魔化すように、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外す。

何も言わなくても脱がせるのを手伝ってくれるのは、彼女が良き妻として南城家で教育を受けてきた証だ。

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