相思相愛ですがなにか?

***********

国内屈指の製薬会社として名高い藤堂グループを束ねる家系に生まれた者として、自由に何かを選べるとは思っていない。

どうしても譲れないものをひとつかふたつ自分の懐に収めたら、後は会社と従業員のために生きようと思っているのに、自体はいつも最悪の方向へと進んでいく。

ニューヨークに行くことになったのはまだいい。

将来会社を背負って立つ時のために経験を積ませ、実績を作るという意味でも、父さんの采配は間違ったものでもない。

そう自分を納得させてこの3年、専務として脇目もふらずに仕事に邁進していたというのに、ほんの1週間前、1本の電話が俺の人生を再び変えてしまった。

「伊織、そろそろ結婚しなさい」

は?え?とか虚を突かれている間に父さんに電話を切られ、俺は何もわからないまま、とにかく帰国することになった。

なにがどうして結婚なんて話になったのだろう?

父さんの思いつきの行動にはいつも悩まされる。

(あー…。胃が痛い)

30年もあの人の息子をやっているけれど、そろそろ本気で逃げ出したくなる。

こうして、俺――藤堂伊織はニューヨークを離れ、日本に帰国することになったのだった。

< 11 / 237 >

この作品をシェア

pagetop