相思相愛ですがなにか?
「ほら、一応私達って政略結婚って体で婚約したじゃない?露骨に誘惑するわけにもいかないし……」
ああ、本当に悩ましい。
やむにやまれぬ事情で婚約したはずの私がやる気満々ではおかしいし、かといって伊織さんが婚約を盾にして私に無理強いするはずもないし。
……まあ、伊織さんに脱げと言われたら、脱いじゃいますけど。
とにかく、双方合意が取れた上で、ごく自然な形でことに及ばなければならないのだ。
それが滅法難しいときたもんだ。
「他のことは自分でお勉強すればいいんだけど、こればっかりは勝手が分からなくて……」
意中の相手を百発百中でベッドに誘い込む良い方法があるなら是非とも教えてもらいたいものだ。
「社交界一モテると噂の月子さんが何言っているの?月子さんの手にかかれば、うちの伊織くんなんて簡単に落とせそうものじゃない」
雫ちゃんはあらやだうふふと余裕の笑みで、私の悩みを悩みだと認識すらしなかった。
「それは誤解だわ」
「謙遜しなくても……」
遠慮しているわけでも、謙遜しているわけでもなく事実を言っているつもりだが、雫ちゃんは信じてくれそうもない。