相思相愛ですがなにか?
「ごめんね、今日も仕事が残っているんだ」
そう言って伊織さんは今夜もベッドから離れ、ひとりデスクに向かうのだった。
お茶会をした昼間、雫ちゃんはきっと伊織さんも振り向いてくれると気楽に言っていたが、現状まったくその気配はない。
(一体いつなのよ!!)
片思い歴10年の私だって、そろそろ我慢の限界である。
こうなったら力ずくでもベッドで寝るように仕向けてやる。
私はベッドから起き上がると、そろりそろりと伊織さんのデスクに近寄り、空間を仕切る役目も担っている本棚から、ひょこりと顔を出す。
「伊織さん……?」
デスクランプが点灯しているが、声を掛けても返事はなかった。
デスクには書類とノートパソコンが広げられたままになっていたが、肝心の伊織さんの姿がどこにもなかった。
(どこに行ったのかしら……?)
そう思って部屋を見回すと、カウチソファに丸まっている伊織さんを発見した。
シャワーを浴びる前だったのか、かろうじてネクタイは外したようだが、Yシャツとスラックスを着たままだった。
仕事というのが私とベッドで寝たくないがための嘘だったらきっと傷ついただろうけど、この様子を見ると、本当に仕事をしていたのだろう。