相思相愛ですがなにか?
10.更なる一手
伊織さんがベッドで寝るようになってから、私はめっきり早起きになった。
(よし、まだ寝てる)
大概の場合、早朝会議やら出張やらで朝早く出掛けていくこともある伊織さんだが、時折今日のように私でも寝顔を拝める時がある。
(えーい!!)
私はスプリングで弾みをつけるとコロコロとベッドを転がり伊織さんの懐に無事飛び込んだ。
無駄に大きいベッドのおかげできっちり50センチの距離をとって寝ている私達だが、伊織さんが寝ているこの時ばかりは、近寄ることが出来た。
もし、伊織さんが起きたとしても、寝相が悪いとか、実家で飼っていた犬と間違えたなど、言い訳はたくさん用意してあるので問題ない。
(ああっ。至福っ)
寝息が聞こえる距離で、凛々しい伊織さんのお顔を拝見できるなんて至福の極みである。
早く堂々とくっついて寝たいなあと思うのは贅沢なのだろうか。
「う……」
ほんのわずかな幸せに浸っていると、目覚めが近いのか伊織さんがにわかに唸り始めた。
……しまった。
(伊織さん、起きちゃった?)
私は伊織さんに見つかる前に慌てて目を瞑り、寝たふりをしたのだった。