相思相愛ですがなにか?
(遅いな……)
俺はいささか緊張した面持ちで、行きつけのバーで学生時代からの友人である冬季緒をひとり待っていた。
左腕に嵌めた腕時計を見ると、既に約束の時刻を10分ほど過ぎていたが冬季緒が現れる気配はいまだにない。
時間にややルーズなのは、俺がニューヨークに行っている間も変わっていないらしい。
仕方なく馴染みのバーテンダーにウイスキーのお代わりを注文してみたが、今日ばかりは飲んでも酔えそうにない。
待ち合わせをしたこの会員制のバーは酒の種類の多さと、前に出すぎないバーテンダーの接客もあって、日本にいる頃は冬季緒とよく飲みに来ていた場所だった。
人目につきづらい大通りから離れた立地、顔の輪郭すら曖昧になるほどの薄暗い照明、完備された個室は、人に聞かれたくない話をするには都合が良い。