相思相愛ですがなにか?
「結婚式の前になってしまうけれど、11月の月子ちゃんの誕生日でどうかな?」
伊織さんは2か月後の私の26歳の誕生日――11月22日に入籍しようと提案しているのだ。
政略結婚の私達にとっては皮肉としか思えないけれど、いい夫婦の日に婚姻届を提出するなんて夫婦の始まりとしては理想的とも言える。
しかし、今の私は先ほどの女性のことばかりが頭を占めていて、婚姻届のことなどまともに考えられそうになかった。
真面目な伊織さんのことだから、私と婚約した以上、二股を掛けているということはないはず。
伊織さんの過去の交友関係についてはほとんど把握していたつもりだけど、とんだ伏兵が現れたものだ。
(絶対に渡さないんだから……!!)
心ここにあらずとなった私を見て、伊織さんはこの場で婚姻届をいつ提出するか決めるのを諦めたらしい。
「すぐに決めなくていいから、いつにするか考えておいてくれる?」
「ええ。わかったわ」
優しい伊織さん。
その優しさが私以外の女性にも向けられていたとしたらどうだろう。
そう思うとどんな高級食材を使ったフルコースを食べていても、砂を噛んでいるような気分になった。