相思相愛ですがなにか?
次の日、私は急遽実家に出戻ると、ソファに仰向けで寝転がりお腹の上にパソコンを置いて仕事をしていたお兄ちゃんにここぞとばかりに詰め寄った。
「伊織の歴代彼女?」
「そーよ。今すぐ教えて!!」
伊織さんと付き合いの長いお兄ちゃんなら、あの女性についても何か知っているはずでしょ?
ジェスチャーを交えながらあの女性の特徴を伝えると、お兄ちゃんの目が一層眠そうに垂れていった。
「……知らねーよ」
お兄ちゃんはさも興味なさそうに、パソコンのキーボードを再び叩き始めたのだった。
友達なのに伊織さんの歴代の彼女の名前も出てこないのか。
お兄ちゃんの頭の中には自分の興味ないことに対して割く容量はないのだ。この薄情者。
「じゃあ、彼女っぽい人に心当たりはある?」
「ありすぎてわかんねーよ」
お兄ちゃんはへっと両手を広げおどけてみせた。
「あいつの善人面に騙されてる奴は大勢いたからな。昔から勘違いした女がうようよ寄ってきてたぞ」
善人面って……。
うがった見方しかできないなんて、お兄ちゃんって頭腐ってるんじゃない?
「いつ化けの皮が剥がれるかと思ってずっと張り付いているが、未だにボロが出ないのが不思議なくらいだ」
お兄ちゃんは困ったように肩をすくめた。
お兄ちゃんが伊織さんと友達になった経緯はこの際どうでもいい。
「もう!!この役立たずー!!」
肝心なところで役に立たないお兄ちゃんに見切りをつけると、私は南城家を後にした。
こうなったら自分でどうにかするしかない。