相思相愛ですがなにか?

私は伊織さんが仕事から帰ってきて部屋でくつろいでいるところにさり気なくお邪魔し、不自然にならない程度に甘えながら言った。

「ねえ、伊織さん。例の招待券をもらったレストランなんだけど、私が予約を取り直すから一緒に行かない?」

「いいよ。いつにする?」

「来週の……月曜日なんてどうかしら?」

私はわざとあの女性と伊織さんが約束をした日に、己のデートの約束をぶつけた。

我ながら意地が悪いなと思ったけれど、他の女性の元に行って欲しくないのだからやむを得ないと自分を正当化する。

きっと伊織さんなら、恋愛関係が既に終わっているかつての恋人よりも、正式な婚約者たる私を優先してくれるはずである。

これで、万事解決かと思われたが、私の予想とは違いそう上手くいかなかった。

「ごめんね。月曜は久し振りに友人と会う約束をしているんだ」

「あ、そう……よね……。ごめんなさい。急な話だったわよね」

私よりもあの人の方が大事ってことなの?

自分を選んでくれるはずだと自信満々だっただけに断られたことに地味にショックを受ける。

どんな女性が相手だろうと負けるはずがないと思っていたのに、急に不安に襲われる。

婚約指輪も買ってくれた。

バルコニーから落ちた靴も拾ってもらった。

目が眩むほどの甘いキスもしてもらった。

それなのに、まだ伊織さんの気持ちはこれっぽちも私に傾いていないというの?

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