相思相愛ですがなにか?
「月子ちゃん?」
伊織さんは急に無言になった私の様子を窺うように、顔を覗き込んできた。
「ねえ、キスしてくださらない?この間みたいに」
伊織さんの気持ちを試すようにおねだりすると、彼は少し驚いたようだったが、すぐに応えてくれた。
「……おいで」
ソファに座る彼の脚の間に身体を滑り込ませ、肩に手を置き屈みこむと、伊織さんは私の頬を撫で、髪を耳の後ろまでかき上げた。
大きな手が私を包み、親指が唇をゆっくりなぞると、喜びで身体がうち震えた。
一分一秒でも長く、この人の視界に入っていたいと望むのは愚かなことだろうか。
自分からキスをねだるなんて、伊織さんにとって都合の良い婚約者を演じる私にとっては諸刃の剣である。
それでも、私はこの不安を伊織さん自身の手で取り除いて欲しかったのだ。
伊織さんのキスは愛のない婚約者にするには分不相応なほどに気持ちがこもったものだった。
あの女性のことを考えるだけで胸の奥に苦いものが広がっていくのに、キスだけはこの上なく甘い。
甘くて、甘くて、バターのように溶けてしまいそうだった。
「機嫌は直った?」
伊織さんはキスが終わると、私を抱き寄せしきりに髪を撫でてくれた。
お望み通り二回目のキスが出来たのに、私の表情は依然として曇ったままだった。