相思相愛ですがなにか?

「それで、いつ突撃するんだ?」

「お兄ちゃんは黙ってて!!」

お店に潜入するのに成功した私は伊織さんと例の女性がカウンターで横並びに座っているのを発見すると、サッと身を隠し、イモリのように壁にピタッと張り付いた。

女性との関係を問い詰めるべく聞き耳を立てるが、お店全体が薄暗い上、伊織さん達とは席が離れているせいで話がまるで聞こえてこない。

それでも、時折お店のBGMに混じって楽しそうな笑い声が届いてくるからやるせない。

「やだーっ!!伊織くん……」

「泉…だって……」

私にはそんなに笑顔を見せてくれたことなど数えるほどしかないのに……!!

惜しげもなくとびきりの笑顔を見せる伊織さんを見て、私はもはや女性に対して嫉妬を通り越し、羨望の念を抱いていた。

「おい。まだか?」

「黙っててって言ったでしょ?」

私はお兄ちゃんを構っている暇ないとばかりに手でサッと追い払った。

とりとめもない会話に花が咲き、適度にお酒の酔いが回ったこれからが本番だ。

あの女性が伊織さんを誘惑しようものなら、婚約者の権利を行使して未然にオイタを防ぐのが、良き妻ってものでしょう?

良きタイミングが来ないものかと首を長くして待っていると、煮え切らない態度を腹に据えかねたお兄ちゃんが暴挙にでる。

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