相思相愛ですがなにか?
私は先ほどまで泉さんが座っていたカウンター席に座り、ショボンと肩を落としひたすら反省するのだった。
「ごめんなさい……」
普段滅多に怒らない人が怒ると、こんなにも恐ろしいなんて知りませんでした。
夜更けに繁華街を出歩いていたことをこってり絞られた後、私は街で偶然女性連れの伊織さんを見かけたということにして、あとをつけ回したことを誠心誠意謝った。
「それで冬季緒があんなこと言っていたのか」
女遊びを疑い、お兄ちゃんを呼びだし同行を頼んだところまで話し終えると、伊織さんはクックックと押し殺したように笑った。
「安心してよ。泉と俺はただの友人だから。それに泉は……」
伊織さんは内緒話をするように、私に続きをこっそり耳打ちしてくれた。
「お兄ちゃんに絶賛片思い中!?」
「かれこれ10年ぐらいかな?冬季緒はあの通りの人間だから、全く気が付いていないけど」
伊織さんは内緒と言わんばかりに唇に人差し指を立て、泉さんのプライバシーに配慮した。
内緒と言われても、私は驚きを隠せなかった。
(えー!?お兄ちゃんなの!?)
世の中には奇特な人がいるものだなあっとしみじみ思っていると、伊織さんはさらに私に耳打ちするのである。
「心配しなくても……俺の婚約者は月子ちゃん以外に考えられないよ」
……ああ、照明が暗くて良かった。
私はどことなく嬉しそうに微笑む伊織さんに悩殺され、耳まで真っ赤になったのだった。